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呆けても

呆けても 母の気性や 彼岸花

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母が熊本のN赤病院で静脈瘤の除去手術の失敗で記憶を失くしてもう10年になる。

今では記憶のほとんどが失われ、胃ろうにより食事をとることもなくベッドの上でほとんどの時間の睡眠とわずかな覚醒を繰り返すだけの日々。

まだ母が口から食事を食べていた頃のことだ。

たまにしか見舞いに来ることのできない僕が不器用に食べさせる給仕に、毎日介護に来ていた妹が見かねて僕の手からスプーンを取り上げ、母に給仕を始めた、その時だった。
それまで燕の子供のように口を開いていた母が口をキュッと結んで食事を拒否し、きつい眼差しで妹を睨みつけたのだ。

「あらあら、兄ちゃんから食べさせてもらいたかったの?わかったわかった怒らんでいいよ」

そう言って妹が再び僕にスプーンを渡してくれたのを思い出した。

彼岸花が直立するようにして咲くこの季節になると若いころの母のすがすがしくも実直な気性を思い出す。


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